日本シェーリング株式会社 (PDFファイル) と バイオジェン・アイデック・ジャパン株式会社 (PDFファイル)からの情報提供を追加しています (2007年6月26日)
多発性硬化症 (MS) において,インターフェロンベータ投与開始後にむしろ症状が増悪した,ないしは再発が起こったという症例報告・原著論文・班会議報告が最近発表されています (文献1,2,3).また,平成18年度の当研究班会議でも同様なインターフェロンベータ投与後の増悪が示唆された7例の報告がありました (文献4).このような例は,視神経脊髄型MSやシェーグレン症候群などの膠原病を合併したMSが多いようです.現在,インターフェロンベータ製剤の添付文書では,使用上の注意として,「多発性硬化症以外の自己免疫疾患のある患者又はその素因のある患者[症状が悪化するおそれがある]には慎重に投与すること」と記載されています.
一方,最近,Mayo Clinicならびに我が国では東北大神経内科より,Neuromyelitis optica (NMO) に特異的に出現する抗体としてNMO-IgGが報告されています (文献5).NMO-IgGは日本人でも視神経脊髄型MSで陽性例が多く,その臨床像の特徴は,視神経障害が高度であること,脊髄では3椎体以上の長大な病巣 (longitudinally extensive spinal cord lesion: LESCL) を呈することが多いとされています (文献6).その責任抗原がaquaporin-4 (AQP4) であることがMayo Clinic のLennon博士らにより報告されています (文献7).抗AQP4抗体は日本人でも視神経脊髄型MSで陽性に出る率が高く,連続例でみた成績では,九大例でMS全体の約15%,視神経脊髄型MSで約30%の陽性率です (文献8).抗AQP4抗体陽性MSでは,少数例のretrospective studyですが,インターフェロンベータに対して反応を示さないnon-responderが多いことが最近明らかにされました (文献8).抗AQP4抗体陽性例は,抗核抗体やSSA/SSBなどの自己抗体陽性例が多く,またLESCLを伴いやすい特徴があります (文献8).したがって,抗AQP4抗体陽性例が従来のMSとは異なる別の疾患である可能性も考慮する必要がありますが,その結論を出すには時期尚早です.
2004年に当研究班が実施したMS全国臨床疫学調査結果によれば,長大な脊髄病巣 (LESCL) を有する例や,膠原病を有する例で,そうでない例より,主治医の主観的な判断でインターフェロンベータ投与後の増悪例が多いことが示されています (文献9).ただ,同時に主治医が,インターフェロンベータが有効と判断した例も,LESCLを有する視神経脊髄型MS例では51.5%,LESCLを有する通常型MS例では63.3%,膠原病合併例では36.8%ありました.
したがって,主治医の判断に基づく客観性の乏しい集計ですが,LESCLを有する例や膠原病を合併する例は,そうでない例よりインターフェロンベータに反応しない確率が高い可能性が考えられます.一方,インターフェロンベータに反応する例も少なからず存在すると推定されます.この点を明らかにするためには,より詳細な客観的データを集積する必要がありますので,当研究班では平成19年度にインターフェロンベータ投与例についての全国調査を実施する予定です.このような全国調査結果に基づいて,当神経免疫班では,神経学会,神経治療学会,神経免疫学会と合同でMS治療ガイドラインの改訂を実施する予定です.
このようなガイドラインの改訂が行われるまでは,LESCLを有する例や膠原病を合併する例でのインターフェロンベータの使用には慎重を要すると考えられます.したがって,抗AQP4抗体陽性例とnon-responderの関連を考慮すると,LESCLを有する例や膠原病を合併する例で新規にインターフェロンベータを開始する場合や,これまで使用していても再発回数の減少がみられない場合は,抗AQP4抗体の測定が望ましいと考えられます.もし陽性である場合は,抗AQP4抗体の意義が明らかになるまでは,新規例についてはインターフェロンベータの開始は慎重に検討する (あるいは見合わせる),これまで使用して再発回数の減少がみられない例については継続を再検討するなどが必要と思われます.なお,抗AQP4抗体の測定は,新潟大学神経内科,九州大学神経内科,東北大学神経内科等で無料で実施しています (抗AQP4抗体の測定は,神経学会診療向上委員会を通して医療保険で測定できるようお願いしておりますが,現時点では認められていません).